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ピーナツバターブックス5:シトラス・カウンティー

12/4/2012

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Brandon, John. Citrus County. McSweeney's Rectangulars, 2011.
(邦訳はありません。)
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現代アメリカの郊外都市の倦怠感や貧困といったやるせなさを、十代の少年少女の目から描く作品はほかにもたくさんあるけれど、登場人物たちをこんなにも拒絶したくなる小説ははじめてだ。

おさないころに父母をうしなった十三歳のトビーはフロリダのシトラス・カウンティーという郡に叔父とふたりで暮らしている。そこはとくになんのおもしろみもないカウンティーで、マナティのいる湿地帯にかこまれているが子どもたちはそんな自然を美しいとも貴重だとも思うことなく日々を送っている。トビーは平気で道端にごみを捨て、さらには転校生の女の子、シェルビーの妹のちいさなケイリーを誘拐して地下倉庫にとじこめる。シェルビーはクラスメイトや教師を含めあらゆる人をばかにしており、二十九歳の地理教師、ミスター・ヒブマは自分はただ教師である「ふりをしている」のだと自分にいいきかせている。FBIの捜査官でさえまったく熱意を持っておらず、誘拐事件がおきてもまるでうわのそらだ。そんな登場人物のだれもが自分だけが特別だと考え世界をないがしろにしている様子には、嫌悪感をいだかずにいられない。

でも。こんな良心も常識も、感情さえないように思える人たちの姿が淡々と語られるなかで、やはりなにかが変わっていく。トビーとシェルビーの関係、ミスター・ヒブマの人生観。どんどん悪い方向に向かっているようにみえた無力なトビーが、自分ひとりの力でぐっと頭を持ち上げる瞬間には、おどろきと感動をおぼえる。人はあらゆる期待がうらぎられ希望をうしなったとき、はじめて自分の力に気づくのかもしれない。最後はタイトルにふさわしい、さわやかな読後感が待っている。

作者のジョン・ブランドンはフロリダ州育ち。2008年に Arkansas でデビューし、2010年出版の本書 Citrus County は2作目の長編小説。本書の一部は肉体労働で各地を点々としながら書かれた。
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    Rumi Hara

    原 瑠美
    翻訳者/イラストレーター。1982年生まれ。おもしろ水彩画やコミックを制作。訳書にカレン・ラッセル『スワンプランディア!』(左右社)。ジョージア州サバンナ在住。

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