チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著、くぼたのぞみ訳 『明日は遠すぎて』、河出書房新社(2012年) 2006年から2010年までに発表された9作品を集めた日本限定のオリジナル短編集。作者のアディーチェは1977年ナイジェリア生まれ。大学からはアメリカで学び、2007年には『半分のぼった黄色い太陽』でオレンジ賞を受賞している。訳者はアフリカやラテンアメリカ系の作家の作品を数多く翻訳されてきたくぼたのぞみさん。
まず迎えてくれるのはある少女の夏の記憶、表題作の「明日は遠すぎて」。十歳の夏に起きた事故をきっかけに、アフリカの家族とは会わなくなってしまった「きみ」が、祖母の葬儀のためにアメリカから十八年ぶりにナイジェリアに戻ってくる。8月の空気や木々の様子とともに思い出される初恋、兄ばかりがちやほやされることへの反発、そして「初めて自分を意識した」こと。たった十数ページのうちにその場所のにおいまでかいでいるような気持ちにさせられる、みずみずしい一編。 ラゴスやスッカなどの都市と、それらと対照的なちいさな村など、各作品でナイジェリアの異なる場所の様子をうかがい知れるのも興味深い。「シーリング」では若くして成功したビジネスマン、オビンセの視点から大都市ラゴスの喧噪とともに、裕福に暮らす人々の倦怠感のようなものが浮き彫りにされるし、「がんこな歴史家」ではオニッチャの学校に通うようになった少女、グレイス=アファメフナを、祖母の村のイメージが捕らえてはなさなくなる。 登場人物たちはまた、アメリカ、イギリス、フランスへと向かう。ナイジェリア国内でも、欧米的なものが富の象徴であることを超えてもはや日常になろうとしている。そんななかで自分が何者であるかということを強く意識し、感情を素直にあらわそうとする若者、特に女性たちの姿が熱風のようなさわやかで力強い印象を残す。 さあ、次は彼女の長編を読んでみよう。現代文学の青葉に覆われたおおきな木の、根元に立つことができた気分だ。
2 Comments
Coyote
5/12/2012 02:34:43 am
This review is very well written and inspiring! Congratulations. I need to read the book, too... Sorry Nozomi san.
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Rumi Hara
5/12/2012 04:07:30 am
Thanks, Coyote man!
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Rumi Hara原 瑠美 Archives
March 2015
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