St. Lucy's Home for Girls Raised by Wolves, Karen Russell, Vintage Books, 2007
(和訳はないのでぜひ原書で。) ふしぎがつまった短編集。GRANTA の "Best Young American Novelist" に選ばれ、第二作でありはじめての長編小説、Swamplandia! では2012年度のピューリッツァー賞最終候補にもノミネートされたカレン・ラッセルのデビュー作です。 どの作品もとても奇妙な設定でありながら、ひとつひとつの単語の意味を拡張して思いがけない言葉どうしを結び合わせるような、イメージゆたかな文体にすぐにひきこまれます。特に印象深いのはまず、フロリダ州エヴァーグレーズの湿原の物語、「エーヴァはアリゲーターとたたかう(Ava Wrestles the Alligator)」。ちいさなエーヴァが幽霊や鳥男の出没する沼地で姉のオセオーラを救うため、勇敢にアリゲーターとたたかいます。このお話はSwamplandia! でさらに発展していきます。 そして「オリヴィアを探せ(Haunting Olivia)」。Haunting はふつう、幽霊などがとりついて離れないことを言うけれど、ここではあえて「探せ」と訳したい。ふたりの兄弟、ワローとティモシーが行方不明になった妹、オリヴィアを探して毎晩、海に潜ります。会えるとすればそれは幽霊のオリヴィア。幽霊はこわい、でもそもそも幽霊なんて信じる?信じたりばからしく思ったり、ティモシーの気持ちは揺れ動きます。半信半疑であっても妹を見つけようとがんばるティモシーを、いつしか「探せ、探せ!」と心のなかで励ましていて、現実と非現実がはっきりわかれているつもりで過ごしてしまう日常とは、すこしちがった考え方をしていることに気がつきました。 表題作の「狼に育てられた少女たちの家(St. Lucy's Home for Girls Raised by Wolves)」も必読。狼人間の子どもたちが修道院で〝人間〟になるためのレッスンを受けます。家族とは、故郷とはなにか。そんな問いをつきつけるようなラストシーンの描写はあざやか。〝Home〟の概念がぐらりとゆらぎ、まわりはじめます。
2 Comments
Coyote
5/4/2012 08:54:05 pm
Have you sent this to Karen? You SHOULD!
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Rumi Hara
5/4/2012 11:08:00 pm
Good idea, I will! Thanks!
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March 2015
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